浅草岳(複式山滑走板)

個人山行
【日時】二〇一四年三月二日(日)
【構成員】複式山滑走板突撃組三名 客人一名
【天候】 曇り/小雪
【山域】 守門
【地形図】 守門岳
【実録時間】 大自然館(標高四百九十米)午前八時十五分 − 林道終了点(標高六百六十五米) 午前八時五十五分    休憩(標高八百十五米)午前九時十九分から九時二十九分 − 休憩(標高千百六十米)午前十時十三分から十時二十六分 − 前岳(標高千五百六十八米)午前十一時二十七分 − 山頂(標高一五八十五米)午前十一時四十二分から十一時四十九分 − 嘉平与ノボッチ下(標高一四八〇米)午後零時二十四分 <昼の憩い>午後一時三十五分 − 大自然館 午後三時四分


今週の会山行の龍ノ山は,氷筍で知られる山である.しかし,複式山滑走板には不向きの山のようである.やむなく複式山滑走板突撃組は,古から隣の守門岳とともに越後は中越の複式山滑走板遊戯伝統の山として日本国全土にあまねく知れわたる浅草岳に出陣とあいなる.しかも本日は複式山滑走板一式を新調した組員も満を持しての参加である.

浅草岳を積雪期に登る行程として以前はもっぱら浅草山荘から取り付き,ムジナ沢を詰めるというのが伝統の行程であった.しかし,この行程ではムジナ沢の右岸をえんえんと斜行するという決定的な弱点がある.このごろは大自然館から登るのが複式山滑走板遊戯界では一般的のようである.数年前に標高九八〇米付近までは,この行程を踏査している.そこで,この度は,この行程から山頂を目指すのである.

組長とは午前八時に現在休止中の大自然館で待ち合わせる.洞窟風呂で知られた大自然館は休止中であるが,ここまでは除雪がされている.ありがたい.

大自然館の除雪終了場所には七台の車両が駐車してあり,既に皆さん出発した後だ.我々もすぐに身支度を整え出撃だ.

先発組には,複式山滑走板遊戯者もいるようだが,和かんと舶来かんじきの踏み跡が弾丸溝となって続いている.和かんの踏み跡は,でこぼこで快適ではないので,わずかに積もった湿った新雪を歩くと接着式人造海豹皮に雪がへばり付きそうな感じがする.仕方なくほぼ和かんの踏み跡を辿る.

しばらくは林道なりに歩く.周りは立派な杉林である.その林道も大きく開けた標高六百七十五米付近で終わる.



まずは,林道を歩く.

ここで先行者の踏み跡は,沢筋に入らずに杉林の中を進んでいる.杉林の中は基本的に快適ではないので帰りは沢筋を滑って降りることにしよう.

その杉林を斜行気味に抜けると,前回登った八百六十米標高点下の大きな切り開きの斜面に出る.雪の状態によっては普通に沢筋を登ったほうが楽しいと思う.

前回途中までこの行程を登った時は杉林の最後にある広い切り開きの上まで登り,そこから斜行してヤヂマナ沢右岸尾根に出た.本日の踏み跡は始めから緩くその切り開きの下部を斜行気味に進んでいる.そうして切り開きが終わるところで,その尾根に取り付いている.この行程のほうがずっとかしこい.その尾根の取り付きのところで本日一回目の休憩をとる.



ここから尾根歩き

本日は小雪っぽいが風もなく,気温も高く今季初めて上着を着ないで歩いてきた.それでも,つい汗をかいてしまった.その汗を拭きとり用の長方形高吸収性西洋布で顔を拭いたところ,右目の接触式柔軟樹脂製使い捨て視力矯正眼鏡が目の奥に入ってしまう.左目は十分に見えるので,とりあえず問題はないが帰りの滑りでは霧っぽくなって輝度差が低下すると立体視ができないため,斜面の変化が分かりにくく少々不便ではあった.



標高九百五十米付近

標高九百米前後が,この行程で唯一の急斜面であるが,それほどの角度ではない.ただし,ここは風の影響による抉れと氷化した雪面となりがちのところである.よって,滑りは残念ながらそれほど楽しめない.



奥は,夏道の桜ゾネ

標高千百米付近から,周りの尾根が次第に見えてくる.左手には夏道が付けられた桜ゾネ行程尾根が見える.この付近の行程には山毛欅が優勢で,歩いていて楽しい.

残念ながら終始霧っぽくて視界はないが,それでも振り向くと時折守門黒姫が山毛欅の梢越しに望める.

このあたりの雪の状態は,固く締まった古い雪の上に積もったばかりの新しい新鮮な新雪が数糎米積もった状態だ.粉雪とまではいかないが下よりもずいぶん良くなり,接着式人造海豹皮に付かなくなって軽く歩くことができる.先日の一千万分の二十五微小物質による汚れもすっかり新雪に覆い隠され,真っ白な景色が広がって美しい.

標高千百六十米付近で二回目の休憩だ.もう二時間以上歩いている.風もなく寒くもないが,後で着るのが面倒なので,ここで雨具の上着を着る.



標高千七十米付近(背景は,守門黒姫)

山毛欅の枝には霧氷が付いて奇麗だ.はるか上の稜線には先行者が歩いているのが見える.嘉平与ノボッチ付近の尾根だろうか.一瞬,雲が切れて滑らない広大な早坂尾根が見える.



千二百四十六米標高点付近

標高千三百五十米付近で伝統のムジナ沢行程から登る尾根と合わさる.この尾根も適当な角度で,山毛欅の間を縫って滑るのが楽しいところである.



ムジナ沢から登るときの尾根

今日は終始雲の中のようで視界が利かないが,それでもときどき周囲が見えるときがあり,ここまで登ると景色が一変する.いくつもの雄大な尾根にすっきりと聳える山毛欅の林の列,雄大な雪庇,そして広大な白い斜面が広がっている.冬にしか見ることができない世界だ.たった千五百米程度の標高で,この景観があるのは世界でも稀にみる大量の降雪がもたらすものだ.世界に誇る越後の雪である.

嘉平与ノボッチの南側を斜行で通過すると,前岳で先行者が滑走の準備をしている.複式雪滑板遊戯者二名と幅広単式滑走板遊戯者四名の編隊である.



わずかに見えた前岳から鬼が面岳方面の崖

山頂までは前岳から少し下って登り返す.前岳に背負式登山袋を一旦置いて山頂まで往復する.

前岳と山頂の間は,がりがりなうえに視界がない.一時は視程が二十米程度のこともあった.接着式人造海豹皮を装着した複式滑走板では制御が難しい.南側の崖に落ちたら大変である.慎重に山頂を目指す.



山頂

山頂付近はがりがりと海老のしっぽの連続である.ところどころ岩や灌木も出ている.登りやすいところを探して山頂に立つ.五味沢側からは本当に久しぶりの山頂である.

登り始めて既に三時間以上経っている.お腹もすいている.すぐに前岳に接着式人造海豹皮を装着したまま戻る.

山頂からのがりがり斜面の下りで,一度など斜面の段差に気付かずに側方一回転を披露する.残念ながらひねりが足らず,高得点は貰えなかったようだ.

前岳に戻ると嘉平与ノボッチを超えたところでお昼にしようとの進言があり,ここでようやく接着式人造海豹皮を取り外して滑走開始だ.

がりがりと締まった新雪の混在斜面が続く.ここは滑りやすい新雪斜面を選んで滑る.快適である.すぐに嘉平与ノボッチの斜行だ.

視界が利くようになり,先行する組長と客人一名を見ると雪庇の上である.危険が危ない.登りの行程をそのまま辿っているが,ここはもう少しムジナ沢側を行くほうが安全だ.



嘉平与ノボッチ

嘉平与ノボッチを超えたところで昼の憩いである.先行した組長により,既にちゃぶ台と長椅子が雪によって概ね築造されている.風もなく,それほど寒くもないので本日は天幕覆い幕を使わないことにする.

昼の憩いを終えて,いよいよ複式山滑走板で滑走だ.嘉平与ノボッチをわずかに下るとがりがり斜面は無くなり,固くしまった雪に積もったばかりの新雪斜面をすこぶる快適に滑ることができる.



標高千二百六十米付近

先行する複式山滑走板一式を新調した組員も調子よくはるか先を滑り,とうに視界から消えている.組長は平らな斜面もとび跳ねながら滑っている.さすがである.

この快適な斜面も標高九百五十米付近までである.この先は大きな段差があるうえに少々がりがりに吹きだまった湿り雪が交互に続いている.標高差で五十米程度であるが速度を制御しながら滑る.



標高九百五十米付近

この先も雪が良ければ林道終点まで適当な角度で楽しい斜面が続くが,本日はこのあたりまで下ると新しい湿り雪の下の締まり雪が腐れ気味で,回転に気合が必要となってくる.



標高八百米付近

登りでは杉林の中を歩いたところで帰りは予定通り小沢を辿って開けた林道終点に出る.雪はもうぐさぐさである.春を感じさせる雪だ.後は林道に付けられた踏み跡を忠実に辿っていく.



小沢を滑る.


ここから林道

この林道,少々登り返しもあるがそれほどのことはない.最後の橋の手前で近道をしようと杉林の中を滑ったが,近道というほどのことはなかった.



大自然館

この度は五味沢側から久しぶりに浅草岳に登った.この行程は無駄がなく登ることができる.ムジナ沢行程のようにやたら長い斜行がない.林道歩きも,まあ許容限度内だ.ただし,この行程では厳冬期でもよほど運が良くないと深粉雪斜面を楽しめるところが限られていると思料される.それでも山頂付近の景観が素晴らしい.改めて伝統の複式山滑走板登山の山であると太鼓判を押しておこう.複式山滑走板山界のれじぇんどだ.

最後に報告すべきことがある.浅草岳には,この度の登山行程で踏査したところ,龍ノ山のような氷筍を見聞することはできなかった.しかしながら拙者らは,それぞれの組員の鼻の下にできた少々柔らかい,できたての氷筍のようなものを見逃すことはなかった.



--------- :登り
--------- :下り